「仮想儀礼」篠田節子

【あらすじ】
信者が三十人いれば、食っていける。五百人いれば、ベンツに乗れる―
作家になる夢破れ家族と職を失った正彦と、
不倫の果てに相手に去られホームレス同然となった矢口は、
9・11で、実業の象徴、ワールドトレードセンターが、
宗教という虚業によって破壊されるのを目撃する。
長引く不況の下で、大人は漠然とした不安と閉塞感に捕らえられ、
若者は退屈しきっている。宗教ほど時代のニーズに合った事業はない。
古いマンションの一室。借り物の教義と手作りの仏像で教団を立ち上げた二人の前に現れたのは…。
二十一世紀の黙示録的長篇サスペンス。
【感想】
人生に絶望した男達が金目的に宗教を立ち上げる。
その先にあるのは・・・・というサスペンス。
すごい作品だった。
読後感を一言で言えば、怖かった。
宗教による成り上がりとその先を描いてるんだけど、
その中身が徹底してリアル。
失敗を繰り返しながら成功していく過程も納得いく形になっていて、
ご都合主義なんて感じさせない。
そしてその後も自分が創造したものが勝手に動いていって、
こちらもリアルで怖い。
教祖の正彦が常に常識人なので、視点としては適任。
膨れ上がる宗教を冷静に見ているし、
それが抱える狂気に対しても恐怖を感じてる。
だからこそ完全な悪にもなれず、自分の宗教にのめりこむこともできず、
主人公でありながら常に巻き込まれる側だったような印象はあった。
でもだからこそ面白かった。
上巻下巻合わせて900ページの大作だけど一気に読めた。
それだけリアルでのめりこんでしまう作品。
おすすめです。
【おすすめ度】
★★★★★

仮想儀礼〈上〉仮想儀礼〈上〉
篠田 節子

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