「ソロモンの偽証」宮部みゆき

【あらすじ】
クリスマスの朝、雪の校庭に急降下した14歳。
彼の死を悼む声は小さかった。
けど、噂は強力で、気がつけばあたしたちみんな、それに加担していた。
そして、その悪意ある風評は、目撃者を名乗る、匿名の告発状を産み落とした―。
新たな殺人計画。マスコミの過剰な報道。狂おしい嫉妬による異常行動。
そして犠牲者が一人、また一人。学校は汚された。
ことごとく無力な大人たちにはもう、任せておけない。
学校に仕掛けられた史上最強のミステリー。
【感想】
学校を舞台にした700ページx3冊の大作ミステリ。
すばらしかった。
全てはある中学生の自殺から始まる。
自殺だと思われていたその事件は、
あることをきっかけに変化していって、
誰も予期しない方向へと広がっていく。
そしてまた・・・。
これは事件の真相を探るミステリでもあるんだけど、
それ以上に中学生たちの物語として非常に面白い。
ミステリ的な面白さではないんだけどそこがいい。
それぞれ苦しみや悩みを持つ中学生たちが、
自分達で何とかしよう、って動く姿、
そしてそれによって変えて行く姿。
それがすばらしかった。
最初は登場人物と同様に本当にモヤモヤしていた気持ちが、
最後にはすっきりしていた。
苦しい部分も描いているけど苦しすぎることもないし、
あっという間に読めてしまった。
宮部みゆきの作品で一番好きになるかもしれない。
是非読んでください
【おすすめ度】
★★★★★

「禁断の魔術」東野圭吾

【あらすじ】
「透視す」「曲球る」「念波る」「猛射つ」の4編収録。
ガリレオ短編の最高峰登場。
【感想】
ガリレオシリーズの8作目。短篇集。
相変わらず読みやすくて、さらっと読めてしまった。
ただ内容は可も無く不可も無く、という印象。
それぞれが一応科学も使ってるし、
人間ドラマの部分もしっかりあるんだけど、
単体の作品としてはちょっと浅く感じてしまった。
シリーズ好きな人はもちろん楽しめると思います。
逆にドラマ化後の湯川に違和感を感じてる人には、
ちょっと・・・かもしれない。
【おすすめ度】
★★★☆☆

「7つの会議」池井戸潤

【あらすじ】
トップセールスマンだったエリート課長・坂戸を“パワハラ”で社内委員会に訴えたのは、
歳上の万年係長・八角だった―。
いったい、坂戸と八角の間に何があったのか?
パワハラ委員会での裁定、そして役員会が下した不可解な人事。
筋書きのない会議がいま、始まる―。
“働くこと”の意味に迫る、クライム・ノベル。
【感想】
ある電機メーカーでの不可解な人事、そして後任の課長が知らされた事実とは・・・。
その謎が徐々に明かされていく企業小説。
面白かった。
最初は全くわからない。
ただまわりの会社や社員の人たちが次々と描かれていく中で、
徐々に見えていく想像以上の影の気配。
そしてそれが明らかになって・・・。
そのあとも最後の最後まで見事でした。
何が正しくて何が間違っているのかわからなくなるあの中で、
それぞれの選んだ生き様が輝いてた。
ただあえていうなら、もっと当事者の葛藤を描いて欲しかった。
もちろん描かれていたんだけど、
もっと胃が痛くなりそうなくらい、
これなら自分もやってしまう、と思うくらいの、
葛藤や描写が欲しかった。
まあ今のままでも十分面白かったですけどね!
おすすめです。
【おすすめ度】
★★★★★

「夢幻花」東野圭吾

【あらすじ】
黄色いアサガオだけは追いかけるな―。
この世に存在しないはずの花をめぐり、
驚愕の真相が明らかになる長編ミステリ。
【感想】
祖父が殺された孫娘、家族と合わない大学生、息子と会えない刑事、
そんなそれぞれがある事件を追いかけていくミステリ。
まず構造はよくできていた。
冒頭にまるで関係なさそうな描写がいくつか続くんだけど、
それが最終的にはつながってくる。
そして群像劇っぽい話になってるんだけど、
それぞれの人達の悩みや葛藤を描いた場面も悪くない。
ただ全体としては深みがない印象を受けた。
読みやすいし、続きも気になる展開なんだけど、
各人物をそれほど深く描いているわけでもないし、
ミステリとしても驚愕の展開というものではなかった。
これなら大学生二人に焦点を絞ったほうが良かったんじゃないかなぁ。
普通の作者ならなかなかかもしれないけど、
東野圭吾の作品でこれは物足りなかった。
特別ダメなところはないけど、小さくまとまっちゃってる作品だった気がします。
【おすすめ度】
★★★☆☆

「旅猫リポート」有川浩

【あらすじ】
さあ、行こう。これは僕らの最後の旅だ。
一人と一匹が見る美しい景色、出会う懐かしい人々。
心にしみるロードノベル。
【感想】
猫の視点も交えて描かれる、飼い主と友人達の心温まる物語。
猫を飼い続けられなくなった主人公が、猫と一緒に旅をして、
信用できる旧友たちを訪ねます。
そしてその先々で友達が過去の出来事を思い出したり、
昔から引きずっていた悩みが語られて・・・という物語。
こうして主人公の人柄も徐々に明らかになっていきます。
基本的に主人公はすごくいいやつで、
悩みをもっていたりするのも基本的には友人側。
しかも主人公のちょっとした言葉がそれを軽くしてあげたりするから、
だんだん主人公のことが好きになっていきます。
この猫が飼い主のことを大好きな理由もよくわかる。
そして徐々に結末へ。
ちょっとネタバレになってしまいますが、
この作品は感動させにきてます。
そして実際に泣けます。
有川浩にこうやられたらそりゃね・・・!
少し悲しいけど最後まで気持ちのいい作品です。
泣いてスッキリしたい、なんてときにぴったりな作品だと思います。
良作でした。
【おすすめ度】
★★★★☆

「のぞきめ」三津田信三

【あらすじ】
辺鄙な貸別荘地にバイトに来た若者たち。
彼らは禁じられた廃村に紛れ込み恐怖の体験をしたあげく、
次々怪異に襲われる。
そこは「弔い村」の異名をもち「のぞきめ」という化物の伝承が残る、
曰くつきの村だったのだ…
【感想】
のぞきめ、という怪異を描いたホラー。
怖さは最初の刀城シリーズくらい。恐いけど面白かった。
まずこの作品は著者自身が収集した怪異譚という設定で語られる。
友人から聞いた前半部分と、ある民俗学者のノートから成る後半部分。
その設定のせいでまるで実話のように感じられて、わかっていても怖い。
そしてまず前半はしっかりとしたホラー。
ある別荘地でバイトをする若者たち。
寂しい雰囲気、不自然な指示、行ってはいけない場所、
でも彼らはそこへ行ってしまって・・・。
そして後半はある民俗学者の体験記。
こっちも恐い。でもこちらの怖さは刀城シリーズのような怖さ。
閉鎖的な村、あやしい村人、禁じられた何か、触れてはいけない何か、
そして・・・。
どちらも同じものを扱ってて恐いけど、その怖さが違う。
そして最後に作者による解釈があるんだけど、
ここは見事にホラーとミステリの融合ができてた。
全部解くわけじゃないけど、一部に解釈を与えてくれる。
刀城シリーズのような感じ。
というわけで刀城シリーズとして書いても面白そうな内容だったし、
大満足でした。
刀城シリーズが好きなら是非。
【おすすめ度】
★★★★★

「七人の鬼ごっこ」三津田信三

【あらすじ】
西東京生命の電話」にかかってきた自殺志願者からの電話。
男から電話を受けたかつての幼馴染たちが、ひとり、またひとりと・・・
【感想】
幼なじみが次々と殺されていく連続殺人もの。面白かった。
まず導入部が見事。
あらすじにもある通り、自殺志願者からの電話から始まるんだけど、
その危うさと緊張感で一気に引きこまれた。
そしてそのまま先が読めない緊張感のある展開へ。
展開的にどうしても続きが気になってしまうし、
合間合間に挿入される過去もそんな気持ちを駆り立ててくれるから、
あっという間に読み終わってしまった。
ただ唯一気になったのが最後。
最後の落とし方はもう少し違った形のほうが好みだった。
しかも登場人物のキャラクターがあまり立っていなかったことが、
最後の最後ですごく気になっちゃったし。
でもそこまでの過程で楽しめたし、軽く楽しめていい作品だったと思います。
ただ刀城シリーズの味わい深さと比べると・・・ちょっと物足りないかも。
【おすすめ度】
★★★★☆