「嗤う伊右衛門」京極夏彦

【あらすじ】
小股潜りの又市は、民谷又左衛門の娘、岩の仲人口を頼まれる。
不慮の事故で隠居を余儀なくされた又左衛門は、家名断絶の危機にあるというのだ。
しかし、疱瘡(ほうそう)を患う岩の顔は崩れ、髪も抜け落ち、腰も曲がるほど醜くなっていた。
又市は、喜兵衛の1件で助っ人を頼んだ浪人、境野伊右衛門を民谷家の婿に斡旋するが…。
【感想】
四谷怪談を、幽霊や怪異を用いずに新たな解釈で描いた時代小説。
まず前提として私は四谷怪談をほとんど知りません。
それでもしっかり楽しめます。
物語の主な登場人物は、老いた侍とその娘、上司の伊東喜兵衛、
妹を殺された男と仲間のゴロツキ、そして浪人の伊右衛門
最初は彼らの物語がそれぞれバラバラに描かれるのですが、
それが次第に絡みあって最後には密接に絡みあっていきます。
まずこの構成がすばらしい。
ミステリではないけど、ミステリ的な要素を感じさせます。
そして何よりすばらしいのは描かれる感情です。
それぞれしがらみを持って生きている中で、
強烈な悪意によって生まれた憎しみや恨み、恐怖、妬み、など、
醜い負の感情がうごめいていて、それが恐怖を感じさせます。
そしてその中でかすかに光るお互いを想い合う感情。
これがすばらしかった。
美しいとさえ思いました。
あらすじで見れば四谷怪談そのままなんですが、
中身は全く違います。
演劇を見ているかのような、感動的で美しい話です。
時代物に抵抗がある方にはおすすめしませんが、
そうでない方は是非読んでみてください。
【あらすじ】
★★★★★

嗤う伊右衛門 (中公文庫)嗤う伊右衛門 (中公文庫)
京極 夏彦

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