「幽女の如き怨むもの」三津田信三

【あらすじ】
戦前、戦中、戦後にわたる三軒の遊郭で起きた三人の花魁が絡む不可解な連続身投げ事件。
誰もいないはずの階段から聞こえる足音、窓から逆さまに部屋をのぞき込むなにか……。
大人気の刀城言耶シリーズ最新書き下ろし長編!
【感想】
刀城シリーズの長編6作目。
今回の舞台は遊郭。花魁たちが主役。
この作品は今までとちょっと違っていて、
民俗ホラー的な要素はほとんどないし、
迷走する推理やどんでん返しもありません。
もちろん刀城による謎解きはあるんですが、
それはちょっと不思議だった現象を少し紐解いただけで、
あっと驚く真相というものでもありません。
なのでいつも通りのシリーズを期待すると、
あれ?これで終わり?と思ってしまいそうです。
ただ物語としてはなかなか面白いです。
事件は大きく3つの時期に分かれていて、
物語もそれぞれの時代がそれぞれの主人公の視点で描かれるんですが、
最初の、遊郭に売られてしまった女の子の日記がすばらしい。
すばらしい、と言うにはややかわいそうな話なんだけど、
リアルな遊郭の描写や当時の時代背景など引き込まれるものがあります。
ただやっぱりミステリ、ホラーな的な作品を期待しているので、
そういう視点だとちょっと不満も残りました。
遊郭と花魁の物語としてはよかった。
【おすすめ度】
★★★☆☆

「水魑の如き沈むもの」三津田信三

【あらすじ】
奈良の山奥、波美地方の“水魑様”を祀る四つの村で、
数年ぶりに風変わりな雨乞いの儀式が行われる。
儀式の日、この地を訪れていた刀城言耶の眼前で起こる不可能犯罪。
今、神男連続殺人の幕が切って落とされた。
シリーズ集大成と言える第10回本格ミステリ大賞に輝く第五長編。
【感想】
刀城シリーズの長編5作目。
雨乞いの儀式が伝わる村で起きる殺人事件を描く。
設定はすごく好み。あらすじだけでワクワクした。
そして満州からの過去を描いた導入部もいい。
そしていよいよ刀城たちがその村へと訪れて、
不可能と思われる事件が始まっていく。
ただここからが雰囲気にあまり浸れなかった。
登場人物(探偵側も相手側も)の影響と、
この村がこれまでに比べれば閉鎖的ではないせいか、
やや軽い印象を受けた。
そのせいで怖さも薄れてしまったし、緊迫感も薄かった気がする。
トリック部分や解決についてはいつも通りで、
部分部分を組み替えつつ二転三転する推理は楽しいし、
その結果明らかになる真相も見事。
ただ刀城シリーズのトリックは雰囲気に浸れないとやや浮いた印象も受けてしまうので、
もっとどっぷり世界にひたらせて欲しかった。
あまりプラスのことは書いていませんが、
作品単体としてみれば十分良作だったと思います。
このシリーズには期待が大きいのです!
3か4か迷ったけど3で。
【おすすめ度】
★★★☆☆

「塗仏の宴」京極夏彦

【あらすじ】
「知りたいですか」。郷土史家を名乗る男は囁く。
「知り・・・たいです」。答えた男女は己を失い、昏き界へと連れ去られた。
非常時下、大量殺戮の果てに伊豆山中の集落が消えたとの奇怪な噂。
敗戦後、簇出した東洋風の胡乱な集団六つ。
十五年を経て宴の支度は整い、京極堂を誘い出す計は成る。
シリーズ第六弾。
【感想】
京極堂シリーズの6作目。
前半の「宴の支度」後半の「宴の始末」からなる。
前半は6つ別々の物語が描かれていて、
今までのシリーズに出てきた登場人物が少しずつ絡んでくる。
それぞれの話に少しずつ関連性は見えるものの、
直接の繋がりは全く見えてこない。
しかしそれが後半の宴の始末で一気にそれが収束していく。
こういう構成はさすがだし、
それを紐解く結末も見事。
そしてシリーズの登場人物をよく知っているが故に、
ドキッとさせられる展開もあって、それも面白かった。
ただいつも通りだけど上下合わせて非常に厚くてやや読むのが大変だったのと、
今回よく出てくるある設定にちょっと興ざめしてしまった。
なんでもありになると想像の余地が減ってしまって、あまり好きじゃない。
好みはあると思うけど、ここまでの京極堂シリーズを読んできたなら、
その後の話としても楽しめると思います。
【おすすめ度】
★★★☆☆

「虚像の道化師」東野圭吾

【あらすじ】
指一本触れずに転落死させる術、他人には聴こえない囁き、
女優が仕組んだ罠…
刑事はさらに不可解な謎を抱え、あの研究室のドアを叩く。
【感想】
ガリレオシリーズの短篇集。
どの作品も草薙が湯川に相談して、というパターン。
まずガリレオシリーズが好きな方なら良いと思う。
いつもの登場人物たちがいつものように動くし、
短編なこともあって軽い内容なんだけど、
さらっと読んで楽しめる。
ただこの作品単体で読んだ場合は、正直あまりおすすめできない。
物理的なトリックがうまく使われているわけではないし、
東野圭吾らしい深い人物描写もない。
読みやすいし、安心して読めるんだけど、それ以上ではないなぁ、という印象だった。
おすすめ度はガリレオシリーズ愛読者なら、ということで。
ちなみに一番好きだったのは一番目の話でした。
【おすすめ度】
★★★☆☆

「山魔の如き嗤うもの」三津田信三

【あらすじ】
忌み山で続発する無気味な謎の現象、
正体不明の山魔、奇っ怪な一軒家からの人間消失。
刀城言耶に送られてきた原稿には、山村の風習初戸の“成人参り”で、
恐るべき禁忌の地に迷い込んだ人物の怪異と恐怖の体験が綴られていた。
【感想】
刀城言耶シリーズの4作目。
成人参りの儀式で迷ってしまった人物が出会った不思議な事件。
そしてその話を聞いて訪れた刀城の前で事件が・・・という話。
今回もホラーとミステリの融合は健在。
導入部分の成人の儀式で一気に引き込まれるし、怖さを感じさせてくれる。
ただそのあとはあまり雰囲気に浸れなかった。
今回は儀式や伝承自体には謎がないせいで、
これまでの三作のような伝承の秘密を解き明かしていく部分がない。
(ゼロではないんだけど)
そのせいで刀城は事件自体の捜査をメインに進めてたから、
ミステリ色が強めになっていた気がする。
面白かったけど、これまでに比べるとちょっと物足りなかったかな。
もっとどっぷり浸りたい!
【おすすめ度】
★★★★

「凶鳥の如き忌むもの」三津田信三

【あらすじ】
瀬戸内海の兜離の浦沖に浮かぶ鳥坏島。
鵺敷神社の祭壇“大鳥様の間”で巫女、朱音は神事“鳥人の儀”を執り行う。
怪異譚蒐集の為、この地を訪ねた刀城言耶の目前で、謎の人間消失は起きた。
大鳥様の奇跡か?鳥女と呼ばれる化け物の仕業か?
『厭魅の如き憑くもの』に続く“刀城言耶”シリーズ第二長編。
【感想】
刀城シリーズの2作目。
鳥人の儀と呼ばれる秘儀の中で起きた人間消失。
何が起きたのか。そして鳥人の儀とは何なのか、を追う物語。
面白かった。
どうやら自分はこのシリーズの世界観にはまってしまったようです。
これで3冊目ですが、事件が起きる前から面白くて面白くて。
閉鎖的な土地、密かに伝わる秘儀や秘密、それが全貌が徐々に見えてくるワクワク感、
そしてそれが事件と共に解き明かされる様はたまりません。
今回もそうです。
今回は孤島が舞台で日常パートもほぼないため、サスペンス色が強く、
また儀式そのものが事件とも言っていい内容になっているので、
この儀式ってなんだ、なんでこうなるんだ、どこまで続くんだ、
と今までよりも続きが気になる展開になっています。
読みやすかったし我慢できなくて一気に読んでしまいまいた。
ミステリとして読むよりも、この世界、物語に没頭して読むのが一番楽しめると思います。
【おすすめ度】
★★★★★

「厭魅の如き憑くもの」三津田信三

【あらすじ】
神々櫛村。谺呀治家と神櫛家、二つの旧家が微妙な関係で並び立ち、
神隠しを始めとする無数の怪異に彩られた場所である。
戦争からそう遠くない昭和の年、
ある怪奇幻想作家がこの地を訪れてまもなく、最初の怪死事件が起こる。
本格ミステリーとホラーの魅力が圧倒的世界観で迫る「刀城言耶」シリーズ第1長編。
【感想】
刀城シリーズの1作目。
神、憑き物、黒、白、そんな古くからの慣習に囚われた村で起きる事件を描いた作品。
これも面白かった。
3作目を最初に読んだのでこのシリーズを読むのは2作目なんですが、
これも民俗ホラーとミステリの融合がすばらしい。
まず閉鎖的な慣習や文化の中で恐怖を感じさせてくれる序盤。
何かが憑いたしか思えない状況、過去の事件、神隠し、得体の知れない気配、
そしていつでもどこで皆を見つめる不気味なカカシ様・・・。
そして事件が起きてからは不可解な状況が続き、わけがわからなくなったところで、
それを見事に紐解く最後の結末。
すばらしかった。
あと最後に全てを明らかにするときの提示の仕方も好みです。
完璧な一つの推理を披露するんじゃなくて、最後に残った可能性を提示する、というあのやり方。
可能性が提示されるたびに驚かせてくれますしね。
ただ唯一欠点をあげるとすれば、ちょっと読みづらさがあります。特に序盤。
そのせいでページ数の割には時間がかかります。
その甲斐はありましたけどね。
3作目の首無と比較すると、こちらのほうがホラー要素は強め。ほんとに怖いです。
ミステリとしては3作目のほうが気持ちいいかな。
いずれにせよおすすめの作品です。
怖くても大丈夫という人は是非どうぞ。
【おすすめ度】
★★★★★